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仏教,歴史,哲学,法律についての備忘録。

勾留に関する「裁判官」の権限

保釈は「被告人」についてだけ認められている。被疑者は保釈されない。保釈について定めた刑事訴訟法89条及び90条には「被告人」としか記載がないからである。

第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。


第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

勾留理由開示について規定した刑事訴訟法82条も「被告人」としか書いていない。

第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。
○2 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。
○3 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。

しかし、被疑者段階でも勾留理由開示は認められる。

刑事訴訟法207条1項によって、「勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」とされているからである。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

 「勾留の請求を受けた裁判官」が「裁判所又は裁判長と同一の権限を有する」事項は以下のとおり(有斐閣判例六法』の参照条文に拠る。)。

  • 勾留の理由、期間、更新(60条)
  • 勾留質問(61条)
  • 令状発付(62条)
  • 勾引状・勾留状の方式(64条)
  • 勾引状・勾留状の執行(70条)
  • 勾引状・勾留状の執行の手続(73条)
  • 護送中の仮留置(74条)
  • 弁護人選任関係(77~79条)
  • 接見交通(80、82条)
  • 勾留理由開示(83~86条)、勾留取消(87条)
  • 勾留執行停止(95条)

告訴状の「受理」

警察は、告訴を受理する義務がある。

司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない

(犯罪捜査規範63条1項)

告訴状に証拠を添付する必要は、本来はない。告訴は口頭でも受け付けるとされている。

つまり、証拠となるような資料の提出は必須ではない。

自首を受けたときまたは口頭による告訴もしくは告発を受けたときは、自首調書または告訴調書もしくは告発調書を作成しなければならない。

(犯罪捜査規範64条1項)

また、告訴の趣旨が不明であれば後に補充させることを想定している。趣旨不明を理由に告訴を受理しないことは想定されていない。

書面による告訴または告発を受けた場合においても、その趣旨が不明であるときまたは本人の意思に適合しないと認められるときは、本人から補充の書面を差し出させ、またはその供述を求めて参考人供述調書(補充調書)を作成しなければならない。

(犯罪捜査規範65条)

とはいえ、犯罪捜査規範は「警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定め」(同1条)た内規というのが本質である。

 

告訴状の「受理」に関する法律としては、行政事件手続法37条がある。

行政事件手続法上、届出に対する「受理」という概念は存在しない。

適式な届出を受けた行政機関は、当然にこれを受理しなければならない。

届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

(行政事件手続法37条)

 

なお、行政事件手続法37条は同法第5章に規定されている。

刑事事件であることを理由として適用除外はされないし、そもそも、告訴状の受付は処分でも行政指導でもない。

第三条 次に掲げる処分及び行政指導については、次章から第四章の二までの規定は、適用しない。
(中略)
五 刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分及び行政指導

(行政事件手続法3条1項5号)

 しかし、警察も検察も、告訴状を「不受理」とする。

郵送で送付しても返送してくる。

捜査機関は、告訴状の提出が「届出」(行政事件手続法37条)に該当しないと解釈しているようである。

あるいは、同条所定の要件のいずれか(下記)を欠くと考えているようである。

  1. 届出が届出書の記載事項に不備がないこと
  2. 届出書に必要な書類が添付されていること
  3. その他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合

 

 

 

保釈に対する抗告と準抗告の違い

起訴後、第一回公判まで*1にされた保釈請求に対する不服申立て準抗告になる。

第一回公判後にされた保釈請求に対する不服申立ては抗告になる。

 

まず、保釈請求に関する決定(許可決定又は請求却下決定など)については、刑事訴訟法420条2項に基づき、抗告をすることができる。

第四百二十条 裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、この法律に特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合を除いては、抗告をすることはできない。
○2 前項の規定は、勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する決定及び鑑定のためにする留置に関する決定については、これを適用しない。
○3 省略

第一回公判後の保釈請求に関する決定をするのは「裁判所」なので、抗告になる。

 

第一回公判前の保釈請求については「裁判所」ではなく「裁判官」が裁判を行う。「勾留に関する処分」には、保釈請求に対する決定も含まれる。

第二百八十条 公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
○2 省略
○3 前二項の裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

「裁判官」がした「裁判」であるところの保釈に関する決定に対する不服申立て手段は準抗告になる(刑事訴訟法429条1項2号)。

第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一 忌避の申立を却下する裁判
二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
三 鑑定のため留置を命ずる裁判
四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
○2 第四百二十条第三項の規定*2は、前項の請求についてこれを準用する。
○3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない*3
○4 第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
○5 前項の請求期間内及びその請求があつたときは、裁判の執行は、停止される。

なお、準抗告地方裁判所の「裁判所」が合議体で審理する(刑事訴訟法429条3項)。

抗告は高等裁判所が審理する(裁判所法16条2号)。高等裁判所の裁判は原則として合議体で行われる(裁判所法18条1項)。

第十六条(裁判権) 高等裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 地方裁判所の第一審判決、家庭裁判所の判決及び簡易裁判所の刑事に関する判決に対する控訴
二 第七条第二号の抗告を除いて、地方裁判所及び家庭裁判所の決定及び命令並びに簡易裁判所の刑事に関する決定及び命令に対する抗告
三 刑事に関するものを除いて、地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の判決に対する上告
四 刑法第七十七条乃至第七十九条の罪に係る訴訟の第一審

 

第十八条(合議制) 高等裁判所は、裁判官の合議体でその事件を取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に従う。
○2 前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。但し、第十六条第四号の訴訟については、裁判官の員数は、五人とする。

 

*1:「実務上は、形式的な意味での第1回公判期日を開いただけでは足りず、受訴裁判所が実態審理に入ることができるようになるまで、すなわち冒頭手続きが終了するまでであると解している。」(『逐条 実務刑事訴訟法』600頁)

*2:「勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。」

*3:裁判所法26条1項は「地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。」とし、同条2項4号で「その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件」と規定する。刑事訴訟法429条3項は「他の法律において…定められた」ものである。

「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」と「罪証を隠滅する虞」との違い

「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるときが権利保釈の除外事由(権利保釈が許されない例外的な場合)とされている(刑事訴訟法89条4号)。

第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

これは、元々は「罪証を隠滅する虞があるとき」という文言になる予定だった。それが国会の審議(昭和23年6月30日第2回国会衆議院司法委員会第46号)で修正された。

井伊誠一委員長の発言

○井伊委員長 それではこれにて質疑を打切ります。  なお委員長の手もとに各党提案にかかる修正案がまいつておりますので、この際これを朗読いたします。  刑事訴訟法を改正する法律案の一部を修正する案  刑事訴訟法を改正する法律案の一部を次のように修正する。

(中略)

 第八十九條第四号中「虞があるとき。」を「と疑うに足りる相当な理由があるとき。」に改める。

(中略)

修正案について提案の説明を願います。鍛冶良作君。

鍛冶良作委員の発言

簡單に修正案の理由を説明いたします。

(中略)

次に第八十九條第四号の修正でありますが、これは保釈を拒絶する理由の一つとして「罪証を隠滅する虞があるとき。」となつておつたのであります。この虞れありというだけでありますと、あらゆる場合が含まれますので、これを理由に保釈を拒絶せられることが多いと考えましたので、でき得るだけこれを嚴格に定むべきものだと考えまして、「隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と改めて、相当な理由を明示し得るとき、または明示するにあらざれば拒否できないということに改めたのであります。

(後略)

刑事訴訟法89条4号の「罪障を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」と勾留の理由である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法60条1項2号)とは同義である。

本号*1に定める罪証隠滅のおそれも、60条1項2号のそれと理論的な意義では差異はない。
(『条解 刑事訴訟法(第4版増補版)』188頁)。

本条4号にいう罪証隠滅のおそれは、60条1項2号のそれと同義である。

(『逐条 実務刑事訴訟法』172頁)

しかし、どちらのコンメンタールも「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を「おそれ(虞)」と軽く言い換えている。刑事訴訟法制定の経緯に鑑みれば、大変に不用意である。 

 

なお、上記審議の中で、岡井藤志郎は真っ向から反対する意見を述べている自由権は少数者の自由を保障するためにあることを理解しない主張であり、「不見識」といわざるを得ない。

○岡井委員 同僚各位からお出しになつておられる点、これは私も満腔の熱誠を捧げてこれに賛成し支持するものでございます。そのほかに私の個人の意見でございまするが、個人の意見でございまするのであえて皆樣にお諮りせずに、そのいとまもございませんでしたので、ここに提出する次第でございます。すなわち第三十九條第一項中「立会人なくして」を削る。その理由は、かくのごとく立会人なくして接見ができるとするならば、身体拘束の意義いずれにありやということを問いたい。身体拘束をする必要は毛頭ない。ただ体が刑務所におるというだけであつて、自由自在に交通ができる。いかなることでも立会人なくしてやれば天下なし能わざることなしです。そうして弁護人は当該事件の弁護に急なるあまり、いかなる聖人君子の弁護人でも、被告人と相当の相談をやり、相当の証拠隠滅は必ずやる。これはやらなければ人間でない。そうなれば勾引、勾留、逮捕ということはまつたくやめてしまつたらよろしい。何らの意義もなさない。

 その次は第百九十八條第二項を削る。それから第二百九十一條中「終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他」を削る。それから第三百十一條第一項、及び第二項中「被告人が任意に供述をする場合には」を削る。その理由。そもそも身体拘束のごときこそ不利益供述強要の最たるものです。不利益供述を強要するのには身体拘束が最もよろしい。これ以上に有効適切なる方法はない。うそだと思つたら実驗を受けてみたらわかる。ところがこの論理に從い、実原則に從い、またほかの証拠に照し合わせてみたら、質問、尋問というものは決して憲法にいわゆる不利益供述強要ではない。それでわれわれはよろしくこの被告人の地位のみでなく、國家の地位を考えなければいかぬ。被告人のみの人権を擁護するに止まらず、國民大多数は善良なる人々です。この善良なる大多数の人々の基本的人権を擁護するということを考えなければいけない。贈收賄のごとく本人のほか知る者のない犯罪、これは贈賄者も收賄者もともに被告人になるべきものでございまするが、これらは本人のほか知る者はない。かような犯罪は國家の尋問権を認めなければわかりつこない。それから窃盗、強盗、殺人のごとき平凡なる犯罪は、被害届があつて被害はわかりまするが、本人に尋問することができなければ本人に結びつきがつかない。ですから贓品を一つもつておりましても、これこれの窃盗であると認定するわけにもいきませんし、またどの程度、どの分量の窃盗であるかということを認定するによしなきもので、刑の量定ができない。そこで弁護人と自由に交通ができるということと、國家は被告人に向つて尋問権がないということにいたしますれば、結局世の中のばか正直なもの、智惠の足りないものが罰せられて、少しく知識階級の者がこの二箇條を悪用したならば、もう刑罰を科せられるということは絶対にないという結果を招來するものと思います。政治家としてかかるむちやな立法に賛成をするということは不見識である。わが日本は経済その他あらゆる文明の点からいつても、アメリカのごとき大國と違いまして貧弱國である。生存競爭がはげしい。かような國で司法が乱れたならば國は亡びる。この重大なる点を私はいかにしても閑却することができない。それからすでに一言申し上げましてたが、國家が被告人に向い、被疑者に向つて尋問権がないといたしますならば、犯罪がありと思料しただけで無罪の判定を受くべき人間に向つて逮捕状を発する。勾引状を発する。無制限に勾留する。これいかに。ものをお伺い申すくらいは問うたらいいじやないか。尋問ぐらいはかけられないで國家であると言えますか。この点についてはアメリカがわからぬならばアメリカの蒙を啓く必要があると思う。私はかような立法に対しては、個人といたしましても断々固としてかような立法を阻止しなければならぬと思う。もり機会があれが本会議でもどこにでも出て、私一人でも反対します。かように思います。

*1:刑事訴訟法89条4号

弁護人選任届の提出先

弁護人選任届の提出先は手続の進行によって変わる。

  1. 検察官送致前は事件の取扱い警察署(司法警察員
  2. 検察官送致後は検察庁(検察官)
  3. 起訴後は裁判所*1

検察官送致前は「当該被疑事件を取り扱う検察官」がいないので司法警察員に提出するしかない。また、検察官送致後であっても司法警察員に提出することはできる(ふつうはやらない。)。

しかし、刑事訴訟法を知らない警察官(多数いる)は、検察官送致前であっても弁護人選任届の受領を拒否する。

「検察官に出せ」「裁判所に出せ」と不可能なことをいう。

階級や役職が上の警察官は、試験や経験から上記取り扱いを知っていることが多いので、「上司と話をさせてください」と要請するのがよい。

上司も不勉強な場合は、受領させるか、「本日、刑事訴訟規則17条を示されましたが、弁護人選任届の受領を拒否し、○○に提出するよう指示しました」という一筆を書かせる。

 

上記取り扱いの根拠規定は刑事訴訟規則17条及び18条

(被疑者の弁護人の選任)
第17条 公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。

 

(被告人の弁護人の選任の方式)
第18条 公訴の提起後における弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を差し出してこれをしなければならない。

被疑者段階の弁護人選任届については形式不問。
ただし、勾留理由開示など裁判所に対して訴訟行為をする場合には連署した弁護人選任届が必要。

(公務員以外の者の書類)
第六十条 官吏その他の公務員以外の者が作るべき書類には、年月日を記載して署名押印しなければならない。

 

*1:事件が係属している裁判所。控訴した場合、記録が控訴審に移っていれば控訴審が係属する裁判所。その前であれば第一審の裁判所。上告も同じ。記録が移るまでには数か月かかることもあるので、提出時に裁判所へ確認するのがよい。

罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の内実

「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当ママ 理由があるとき」と規定されているのをみると、それは罪証隠減の単なる抽象的な可能性では足りず、罪証を隠滅することが、何らかの具体的な事実によつて蓋然的に推測されうる場合でなければならないことが明かである。

大阪地方裁判所昭和38年4月17日決定・判例時報335号50頁

「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑訴法89条4号)とは、刑訴法60条1項2号のそれと同義である(『逐条実務刑事訴訟法』172頁)。

その程度は「単なる抽象的な危険性ではたりず、確実性までは要求されないが、具体的な資料によって裏付けられた高度の可能性のあることを要」する「予測的蓋然性判断であり、各要因について具体的に検討」(『条解刑事訴訟法(第4版増補版)』150頁)しなければならない。

つまり、具体的な事実に基づいて考えて、罪証隠滅が行われる高度の可能性がない限り、保釈は認められるべきことになる。

はずであるが、実務がそうなっているとはどうしても思えない。

常習性があると権利保釈がされない根拠

常習として長期3年以上の懲役に当たる罪を犯したとき(刑訴法89条3号)には権利保釈が許可されない。

しかし、常習性が権利保釈の除外事由とされている趣旨は判然としない。

勾留の更新回数について制限を設けないとした刑訴法60条2項ただし書きとの関係で、常習性について言及された例であるが、常習性が除外事由とされたことについては「一見理解しがたい」、「現行法立法当時の資料に拠れば、再犯防止の考慮が働いたものと認められる」といわれる(松尾浩也刑事訴訟法 上(補正第三版)』192頁)。

同号が再犯防止も目的に取り込んで判断されていることを示唆する政府委員又は政府参考人の発言がある。

【昭和28年7月20日の第16回国会参議院法務委員会第17号】

楠見義男の質問

もう一つは、全く逆の観点からの問題なんですが、権利保釈でカバーできない罪でですね、而も非常に重ねて害毒を流すといいますか、そういう事例がございますね。例えば宇都宮の何とか御殿事件といいますか、狸御殿ですか、これは権利保釈中に次々に又罪を犯して行く。こういう場合はこれはもう権利保釈の除外事由に該当しないのだから、保釈請求さえすれば幾らでもできる。保釈が許されている間にこういうことになるのでしようか。それは何か制限の途がないのでしようか

政府委員(岡原昌男)の答弁

 それは大変困つた問題でございまして、確かに刑事訴訟法の一つの穴でございます。と申しますのは、この保釈制度が、まあ逃亡とか、或いは証拠隠滅の虞れという点を中心にして考えておりまして、当該事件についての判断にあるわけでございます。従つてそれに対してその後これを更に重ねてやるということについて、一から十まで押えるということは実は困難なのでございます。そこでこの権利保釈除外事由というのは八十九条で掲げましたのは、いわゆる理論的には必ずしも一貫していないと私も思います。と申しますのは、一方では重い罪については権利保釈をしない、一方では証拠隠滅とか住居氏名のはつきりしないとか、逃亡の虞れのあるというような場合を掲げておく、これは必ずしも理論的に首尾全く一貫したとは申上げかねるわけなのでございます。但しその全体を通じて只今お話のような二度目の犯罪を犯しては困るというような考え方も若干出ておるわけでございまして、ただそれを重い犯罪も軽い犯罪も一様に考え得るかと申しますると、これは必ずしもそうは行かない。保釈には保釈してやらなければならないだけの限度というものがやはりあるのではないか。そこを今回は短期一年というので区別したわけでございまして、詐欺は御承知の通り長期十年でございます、短期はございませんので、従つてとれにはいずれにせよ入つて来ないのであります。この御指摘のような場合については、狸御殿のような犯罪については、ちよつと今のところ防ぎようがない。但し恐らくああいう事件について考えるのは証拠隠滅の虞れというのが非常に多いのではないか。あの種の智能犯の事件であれば、そして何とか逃れようというので、片つ方では半ば逃走しつつ、いろいろな次々と事をやつておるのであるから、証拠隠滅の虞れ、或いは場合によつては現行法の八十九条の常習として罪を犯すという条文がございますが、常習として認定し得る限度においてはこの八十九条第三号の「常習として長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯してものであるとき。」という認定ができ得れば、それでもまあ今のようなのを防ぎ得るということにもなろうかと思います。これは認定問題でございますので、なかなか実際問題としては困難な場合もあろうかと思いますが大体そんな建前でございます。

【令和元年5月30日第198回国会参議院法務委員会第16号】

櫻井充の質問

 国民民主党・新緑風会の櫻井充です。
 前回に引き続いて、いわゆる人質司法の問題について質問させていただきたいと、そう思います。
 その前に、一昨日、川崎で本当に許し難い事件が起こりました。お亡くなりになられた皆さん、それから御遺族の方々に衷心より哀悼の誠をささげたいと思いますし、犠牲になられた皆さん、一日も早く回復できるように心からお祈り申し上げたいと、そう思います。
 罪を犯した方は、加害者の方は自殺されましたので、勾留されることはありませんでした。こういう方々がもしあそこで逮捕されていて、そして勾留されていたと、仮に長期間勾留されていた場合に、国民の皆さんはこのことについて批判するかというと、恐らく批判される方は誰もいらっしゃらないんだろうと、そう思います。むしろ、証拠隠滅のおそれがないからといって釈放するようなことがあったとしたら、何でこんな危ない人を釈放するんだと、むしろそちらの方で抗議されることになるんだろうと、そう思うんです。
 そうすると、長期間勾留するという意味合いは、証拠隠滅のおそれがあるという観点もあるかもしれませんが、一方で、社会の秩序を維持していくためという観点から正当化されるところがあるんではないのかと、そういうふうに思っていますが、その点について大臣はどうお考えでしょうか。

国務大臣(山下貴司)の答弁

 現行の刑事訴訟法におきましては、一般に、勾留の目的は逃亡及び罪証隠滅の防止にあると解されているところでございます。
 御指摘のように、治安の維持や公共の安全それ自体を理由として勾留するような制度を導入することにつきましては、将来の犯罪を予防するためとして身体拘束が過剰になされることにならないかなどの指摘もあり得るところでありまして、慎重な検討を要するものと考えております。
 ただ、もっとも現行法においても、裁判所は保釈請求があったときには原則として保釈を許可しなければならないと、これ権利保釈と呼んでおりますが、この権利保釈の除外事由として、例えば事案の重大性に関する事由であるとか、常習性等に関する事由であるとか、被害者等の安全に関する事由などが掲げられているところでございまして、御指摘のような観点も、そういったこの権利保釈の除外事由ということで、指摘されている事案の重大性や常習性に関わる事情として一定程度考慮され得るものと考えております。

櫻井充の質問

 法律の判断については今大臣が御答弁されたとおりだと思っているんです。ただ、そこの中に意味合いとしてこういう点もあるんじゃないのかということを申し上げています。

 つまり、そのことを行うことによる社会的な価値といったらいいんでしょうか、それが何らかの、私はそれがあると思っていて、それがあると思っていて、それは、繰り返しになりますが、社会の治安維持のためだというふうに私は理解しています、もあるんじゃないかと思っているわけです。

 繰り返しになりますが、村木さんのような方を仮に釈放したときに社会的に何か問題が起こるのかと、治安維持について問題があるのかというと、問題がないことだけは、これは御答弁いただかなくて結構ですが、認めていただけるんだと、そう思います。この場合には、罪状を認めていただけないので、証拠隠滅のおそれということで結果的には長期間勾留されることになりました。これはこれで一つの考え方です。

 ただ、前回申し上げたとおり、こういうやり方をしていることによって日本のいわゆる人質司法だと海外から批判され、一部報道によると、海外の投資家の方々が二の足を踏むんではないのかという危険性をはらんでいるということになってくると、どういう人たちと区別をしていけばいいのかという議論をする必要性はあるんじゃないのかなと。

 つまり、繰り返しになりますが、全般的なことを一くくりにして考えることではなくて、ある種差別化して、どこがどういうふうに違っているのか、社会としてどういうものが必要なのかという観点から考えていくような、これまでそういう議論をされていなかったことは重々承知しています。ですが、そういう観点で見ていくことも、これはなかなか大臣御答弁いただけないなら事務方でも結構ですが、そういう観点で考えていく必要性もあるんではないのかと思いますが、この点についていかがですか。

国務大臣(山下貴司)の答弁

 現行の刑事訴訟法において、勾留の目的、逃亡及び罪証隠滅の防止にあると解されているところでございます。
 先ほど申し上げた治安の維持や公共の安全、それ自体を理由として勾留するような制度ではないということでありますが、先ほど申し上げた権利保釈の除外事由として、一定程度そういったその事案の重大性、常習性、被害者等の安全に関する事由ということで判断されているというところでございます。

政府参考人(小山太士)の答弁

 大臣の御答弁、ちょっと重ねての部分も、ちょっと御説明させていただきたいと思いますけれども、現行の刑事訴訟法八十九条には、その事件自体で、被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役等に当たる罪を犯したものであるとき、それから、その重い前科があるときですね、前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役等に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき、あるいは、被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるときにつきまして、権利保釈の除外事由としてございます。これ委員もう御存じかもしれませんけれども。
 ですから、実際上、大臣も御答弁申し上げましたが、一定のそういう危険性があるといいますか、事案の重大性、常習性に係る事情として、そういう御指摘のような再犯のおそれ的なところもある程度は考慮され得る制度でございます。

 しかし、いずれの答弁も、結果として再犯を防止できる可能性があると述べるものであって、再犯防止という目的を正面から肯定したものではない。

「勾留の目的は、逃亡および罪証隠滅の防止にある」(『条解刑事訴訟法(第4版増補版)』144頁)のであって、再犯防止が目的ではない。この点について異論は一切ない。

常習性を広く認めることは法の趣旨に反する。常習性については狭く認定することが法の趣旨に適う。