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仏教,歴史,哲学,法律についての備忘録。

常習性があると権利保釈がされない根拠

常習として長期3年以上の懲役に当たる罪を犯したとき(刑訴法89条3号)には権利保釈が許可されない。

しかし、常習性が権利保釈の除外事由とされている趣旨は判然としない。

勾留の更新回数について制限を設けないとした刑訴法60条2項ただし書きとの関係で、常習性について言及された例であるが、常習性が除外事由とされたことについては「一見理解しがたい」、「現行法立法当時の資料に拠れば、再犯防止の考慮が働いたものと認められる」といわれる(松尾浩也刑事訴訟法 上(補正第三版)』192頁)。

同号が再犯防止も目的に取り込んで判断されていることを示唆する政府委員又は政府参考人の発言がある。

【昭和28年7月20日の第16回国会参議院法務委員会第17号】

楠見義男の質問

もう一つは、全く逆の観点からの問題なんですが、権利保釈でカバーできない罪でですね、而も非常に重ねて害毒を流すといいますか、そういう事例がございますね。例えば宇都宮の何とか御殿事件といいますか、狸御殿ですか、これは権利保釈中に次々に又罪を犯して行く。こういう場合はこれはもう権利保釈の除外事由に該当しないのだから、保釈請求さえすれば幾らでもできる。保釈が許されている間にこういうことになるのでしようか。それは何か制限の途がないのでしようか

政府委員(岡原昌男)の答弁

 それは大変困つた問題でございまして、確かに刑事訴訟法の一つの穴でございます。と申しますのは、この保釈制度が、まあ逃亡とか、或いは証拠隠滅の虞れという点を中心にして考えておりまして、当該事件についての判断にあるわけでございます。従つてそれに対してその後これを更に重ねてやるということについて、一から十まで押えるということは実は困難なのでございます。そこでこの権利保釈除外事由というのは八十九条で掲げましたのは、いわゆる理論的には必ずしも一貫していないと私も思います。と申しますのは、一方では重い罪については権利保釈をしない、一方では証拠隠滅とか住居氏名のはつきりしないとか、逃亡の虞れのあるというような場合を掲げておく、これは必ずしも理論的に首尾全く一貫したとは申上げかねるわけなのでございます。但しその全体を通じて只今お話のような二度目の犯罪を犯しては困るというような考え方も若干出ておるわけでございまして、ただそれを重い犯罪も軽い犯罪も一様に考え得るかと申しますると、これは必ずしもそうは行かない。保釈には保釈してやらなければならないだけの限度というものがやはりあるのではないか。そこを今回は短期一年というので区別したわけでございまして、詐欺は御承知の通り長期十年でございます、短期はございませんので、従つてとれにはいずれにせよ入つて来ないのであります。この御指摘のような場合については、狸御殿のような犯罪については、ちよつと今のところ防ぎようがない。但し恐らくああいう事件について考えるのは証拠隠滅の虞れというのが非常に多いのではないか。あの種の智能犯の事件であれば、そして何とか逃れようというので、片つ方では半ば逃走しつつ、いろいろな次々と事をやつておるのであるから、証拠隠滅の虞れ、或いは場合によつては現行法の八十九条の常習として罪を犯すという条文がございますが、常習として認定し得る限度においてはこの八十九条第三号の「常習として長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯してものであるとき。」という認定ができ得れば、それでもまあ今のようなのを防ぎ得るということにもなろうかと思います。これは認定問題でございますので、なかなか実際問題としては困難な場合もあろうかと思いますが大体そんな建前でございます。

【令和元年5月30日第198回国会参議院法務委員会第16号】

櫻井充の質問

 国民民主党・新緑風会の櫻井充です。
 前回に引き続いて、いわゆる人質司法の問題について質問させていただきたいと、そう思います。
 その前に、一昨日、川崎で本当に許し難い事件が起こりました。お亡くなりになられた皆さん、それから御遺族の方々に衷心より哀悼の誠をささげたいと思いますし、犠牲になられた皆さん、一日も早く回復できるように心からお祈り申し上げたいと、そう思います。
 罪を犯した方は、加害者の方は自殺されましたので、勾留されることはありませんでした。こういう方々がもしあそこで逮捕されていて、そして勾留されていたと、仮に長期間勾留されていた場合に、国民の皆さんはこのことについて批判するかというと、恐らく批判される方は誰もいらっしゃらないんだろうと、そう思います。むしろ、証拠隠滅のおそれがないからといって釈放するようなことがあったとしたら、何でこんな危ない人を釈放するんだと、むしろそちらの方で抗議されることになるんだろうと、そう思うんです。
 そうすると、長期間勾留するという意味合いは、証拠隠滅のおそれがあるという観点もあるかもしれませんが、一方で、社会の秩序を維持していくためという観点から正当化されるところがあるんではないのかと、そういうふうに思っていますが、その点について大臣はどうお考えでしょうか。

国務大臣(山下貴司)の答弁

 現行の刑事訴訟法におきましては、一般に、勾留の目的は逃亡及び罪証隠滅の防止にあると解されているところでございます。
 御指摘のように、治安の維持や公共の安全それ自体を理由として勾留するような制度を導入することにつきましては、将来の犯罪を予防するためとして身体拘束が過剰になされることにならないかなどの指摘もあり得るところでありまして、慎重な検討を要するものと考えております。
 ただ、もっとも現行法においても、裁判所は保釈請求があったときには原則として保釈を許可しなければならないと、これ権利保釈と呼んでおりますが、この権利保釈の除外事由として、例えば事案の重大性に関する事由であるとか、常習性等に関する事由であるとか、被害者等の安全に関する事由などが掲げられているところでございまして、御指摘のような観点も、そういったこの権利保釈の除外事由ということで、指摘されている事案の重大性や常習性に関わる事情として一定程度考慮され得るものと考えております。

櫻井充の質問

 法律の判断については今大臣が御答弁されたとおりだと思っているんです。ただ、そこの中に意味合いとしてこういう点もあるんじゃないのかということを申し上げています。

 つまり、そのことを行うことによる社会的な価値といったらいいんでしょうか、それが何らかの、私はそれがあると思っていて、それがあると思っていて、それは、繰り返しになりますが、社会の治安維持のためだというふうに私は理解しています、もあるんじゃないかと思っているわけです。

 繰り返しになりますが、村木さんのような方を仮に釈放したときに社会的に何か問題が起こるのかと、治安維持について問題があるのかというと、問題がないことだけは、これは御答弁いただかなくて結構ですが、認めていただけるんだと、そう思います。この場合には、罪状を認めていただけないので、証拠隠滅のおそれということで結果的には長期間勾留されることになりました。これはこれで一つの考え方です。

 ただ、前回申し上げたとおり、こういうやり方をしていることによって日本のいわゆる人質司法だと海外から批判され、一部報道によると、海外の投資家の方々が二の足を踏むんではないのかという危険性をはらんでいるということになってくると、どういう人たちと区別をしていけばいいのかという議論をする必要性はあるんじゃないのかなと。

 つまり、繰り返しになりますが、全般的なことを一くくりにして考えることではなくて、ある種差別化して、どこがどういうふうに違っているのか、社会としてどういうものが必要なのかという観点から考えていくような、これまでそういう議論をされていなかったことは重々承知しています。ですが、そういう観点で見ていくことも、これはなかなか大臣御答弁いただけないなら事務方でも結構ですが、そういう観点で考えていく必要性もあるんではないのかと思いますが、この点についていかがですか。

国務大臣(山下貴司)の答弁

 現行の刑事訴訟法において、勾留の目的、逃亡及び罪証隠滅の防止にあると解されているところでございます。
 先ほど申し上げた治安の維持や公共の安全、それ自体を理由として勾留するような制度ではないということでありますが、先ほど申し上げた権利保釈の除外事由として、一定程度そういったその事案の重大性、常習性、被害者等の安全に関する事由ということで判断されているというところでございます。

政府参考人(小山太士)の答弁

 大臣の御答弁、ちょっと重ねての部分も、ちょっと御説明させていただきたいと思いますけれども、現行の刑事訴訟法八十九条には、その事件自体で、被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役等に当たる罪を犯したものであるとき、それから、その重い前科があるときですね、前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役等に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき、あるいは、被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるときにつきまして、権利保釈の除外事由としてございます。これ委員もう御存じかもしれませんけれども。
 ですから、実際上、大臣も御答弁申し上げましたが、一定のそういう危険性があるといいますか、事案の重大性、常習性に係る事情として、そういう御指摘のような再犯のおそれ的なところもある程度は考慮され得る制度でございます。

 しかし、いずれの答弁も、結果として再犯を防止できる可能性があると述べるものであって、再犯防止という目的を正面から肯定したものではない。

「勾留の目的は、逃亡および罪証隠滅の防止にある」(『条解刑事訴訟法(第4版増補版)』144頁)のであって、再犯防止が目的ではない。この点について異論は一切ない。

常習性を広く認めることは法の趣旨に反する。常習性については狭く認定することが法の趣旨に適う。